イグーロス城（執務室） →記録：ダイスダーグとの再会「…初陣を勝利で飾ったそうだな。
兄として嬉しいぞ。
「他の重臣の方々も
さすがベオルブ家の血を引く者と
誉めておいでだったぞ。
「…ありがとうございます。
「なんだ、嬉しくないのか？
「いえ、そんなことはございません。
お褒めの言葉、有り難く存じます。
「…報告があったと思いますが、
エルムドア侯の馬車が襲われ、
誘拐されたとのこと。
「いかがなされますか？
「うむ。ザルバッグに捜索隊を出すよう
すでに手を打ってある。
「また、いずれ、やつらから
身代金の要求もあろう…。
侯爵殿が生きておいでならばな。
「お願いします、ベオルブ閣下。
何卒、私に百の兵をお与えください！
「………。
「何卒、お願い申しあげます。
やつらに殺された仲間の仇を私にッ！
「手を打ったと申しておる。
それがわからぬわけではあるまい。
「ここは貴公が暮らす土地ではない。
ガリオンヌのことは我らに
任せておくことだ。
「し、しかし！
「身分をわきまえぬか、アルガス殿！
「貴公は、騎士の称号すら持たぬ
一兵卒にすぎぬことを
忘れておいでか？
「くッ…………。
「おまえたちには、このイグーロス城の
警護についてもらおう。
「なに、それほど難しくはない。
“危険”が、この城にまで
及ぶことなどなかろうよ。
イグーロス城（庭先） →記録：イグーロス城にてラムザ、ディリータ：アルガスの話に振り返る
「…オレの家も昔はベオルブ家みたいに
皆から尊敬される家柄だったんだ。
「五十年戦争の時に、オレのじいさんが
敵に捕まってなぁ…。
「じいさん、自分だけ助かるために
仲間を敵に売ったんだよ。
そう、自分の命を救うためにね…。
「でも、敵の城を出たとたんに
背後から刺されて死んじまった…。
オレみたいな騎士見習いにな。
「そんな話を、じいさんの仲間だった
一人が命からがら脱出してきて
方々に吹いてまわったんだ。
「もちろん、オヤジは信じなかったよ。
でもな、みんなその話を信じた。
そして、みんな去っていった…。
アルガス：宙を見上げて
「身分か……。たしかに、オレ一人じゃ
ダイスダーグ卿には会えんよなぁ…。
「兄さーん！
「ティータ！
「アルマ、ザルバッグ兄さん！
三人のもとへ
「ラムザ兄さん。
戻っておいでだったのね。
「お久しぶりです、兄さん。
「聞いたぞ。ガリランドでは
盗賊どもをけちらしたそうだな。
「それでこそベオルブ家の一員だ。
亡き父上も喜んでおいでだろう。
「…ありがとうございます。
「ふふっ、あいかわらずだな。
こんな言葉じゃ素直に喜べんか。
「ディリータ。たくましくなったな。
おまえの活躍の話も聞いたぞ。
ティータが嬉しそうだった。なぁ？
「ディリータ兄さん。
お元気そうでなによりです。
「ティータこそ元気そうでよかった。
学校には慣れたか？
「ええ、みなさん、
とてもよくしてくださるので…。
「ゆっくり話していたいところだが、
これから盗賊狩りなんだ。すまんな。
「ご武運を。
ザルバッグ：ふと止まる
「…骸旅団から身代金の要求があった。
「なんだって！？
「…どうも腑に落ちないことがある。
「骸旅団は反貴族を掲げるアナーキスト
だが、貴族やそれに仕える者たち以外
には手を出さない義賊だという。
「そんなやつらが金目当てで
侯爵殿を誘拐したとは考えにくいな。
「ばかな！
やつらはただのならず者だ！
「情報収集のために放った“草”（スパ
イのこと）の一人が戻ってこない。
「大事に巻き込まれたと考えられるが
“草”ごときに捜索隊を出す必要は
ないと重臣の方々はおっしゃるのだ。
「どこで消息を絶ったんですか？
「ガリオンヌの東、
ドーターという名の貿易都市だ…。
「…城の警護なんぞ、退屈だぞ。
そう思わんか？
「ティータ、すまない。
僕らは行くよ。
「私のことなら心配しないで。
自分のことだけ考えてね。
「大丈夫。無茶はしない。
必ず戻ってくるからいい子でいろよ。
「さぁ、行こうぜ、アルガス。
「ティータはああ言ったけど、
ほんとは……。
「ティータがどうかしたのか？
「身分が違うって、
学校でいじめられることが多いのよ。
「………。
「ごめんなさい。兄さん。
余計な心配させちゃって。
「ティータのことは大丈夫よ。
私がついているから。
安心して。
「心配なんてしてないさ。
でも、あんまり無理するなよ。
「兄さんこそ、周りの期待に応えようと
なんでも背負い込みすぎよ。
「兄さんは兄さんなんだから、
ベオルブの名に
縛られることはないわ。
「まるで、母さんみたいな言い方だな。
ははははは。
「ラムザ兄さん……。